早春
- assemblage507
- 2015年4月1日
- 読了時間: 3分
四月の雨 薄紫のムスカリ 屋根を叩く音 傘の花 窓辺に寄りかかって タバコを吹かす 私が嫌がっても やめようとはしないね 冷蔵庫に 食べるものがないから 買い物に行く? 外で食べる? いらね ぶっきらぼうに こちらを見ないまま 仕事見つかった? パチンコはダメよ うっせえ 夜勤明け 化粧も落とさず 髪も梳かず 無意味な会話で 憂鬱になる おれ 出てくわ ポツリと雨粒が落ちるように でも バケツの冷水を浴びせられたような え? 何? 出てくっつったの なんで? どうだっていいだろ 気が変わったんだから なにこいつぐうたらしてるだけであそんでるだけでごろごろしてるかむだづかいしてつくったものにはもんくいうだけわたしのからだをむさぼるだけでやさしくしてくれたことなんかないじゃないのなぜよなにいってるのよ ウソでしょ それでもなんでひきとめようとするのわたしは なんだよ勘弁してくれよ そんなんだからな もう退散するわ んじゃな まるで当たり前のように タバコでも買いに行くかのように 身軽に立ち上がって 靴を引っ掛けながらノブを回す 部屋の中なのに ずぶ濡れになったみたいに からだが重くなって こころが冷たくなって 濁ったモノクロームに支配された ただ立ち尽くして 次の行動に移れなかった 頭では理解してるつもりなのに 意味が分からなかった たいして楽しい思い出もないのに 浮かれた気分にもならなかったのに ただ彼の望みを聞くことで 愛されていられると思い込んでた それだけ それだけ? 私は意味もなく 薬缶に水を入れ火にかけた 考えることをやめると 習慣が動き出す きっとこのままベッドに倒れこんで 眠ったふりをしてまた仕事に向かうのだろう どこか冷めた頭の片隅で 自分を見ている自分がいた 雨音がポツリとつぶやく 薬缶がクラクラと音を立て始める ガスコンロの五徳を チラチラと炙る火を見つめていた 薬缶の口から湯気が立ち始めた頃 部屋の気圧を一気に下げるように 玄関のドアが開いた 出て行く時と同じくらいに 身軽な感じで ごく自然に彼が入ってきた 困惑して コンロの前で身動きできないでいる私を見て なにやってんだよ なに? どうして? 湯 湧いてるぞ 薬缶の音が大きくなって 頭の中に響いていた 小銭の音がこすれながら 先ほどと同じ窓辺に腰を下ろした彼は 新しいタバコの封を開け一本取り出して咥えた 薬缶 少し強い口調で言いながらタバコに火をつける 反射だけでコンロの火を止め 一歩だけ彼に近づく なんで? なにが? さっき 出てくって ああウソだよ ウ ソ え? エイプリールフール え? 真に受けんなよ 馬鹿 それだけ言うと 窓の外に目をやり 煙を吐き出した
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